リュブリャーナ | (スロベニア) |
|午後7時前
少し早いが、リュブリャーナの市内観光はこれで終わりである。
列車に乗る前に何か軽く食べておきたいと思い、namaビルの前から三本橋にもどりがてら惣菜パンの店を探す。夕まぐれはゆらゆらと迷いながら明るさを長い間とどめていたのに、いったん色をなくし始めると、あっという間に夜になる。空の暗さに反比例するように、ウィンドーの照明が周囲を温かく照らし出す。
ザグレブで見たような惣菜パンの店はなかなか見当たらない。腹ごしらえをどうしようか迷い始めた頃、壁にマクドナルドの看板を見つけた。渡りに船。わずか四時間半の滞在でマクドナルドというのは多少安易ではあるが、観光を終えて今は移動モードなのだと心中で言い訳をし、店舗のある二階に上がる。
わりと新しい感じの清潔な店舗だ。カウンターの上に並ぶ鮮やかな写真を見ると、六種類のハンバーガーのいずれかにポテトとドリンクを付けるとMcMenuというセットになるようだった。値段は4.75ユーロなので、ざっと五百円である。しかもドリンクは500 mlという気前の良さだ。
写真の様子ではポテトの代わりにサラダを選べそうだったのでサラダを頼むと、私の勘違いか店員の間違いか、サラダは追加注文となるが、それでも合わせて5.75ユーロだった。
|19:45 駅にもどってくる。駅舎のなかで待機するが、少し冷えてきたのでロッカーの荷物を取りに行き、カーディガンを出して羽織る。列車の発車まであと1時間。
|20:25
列車は20時49分発なのでまだ時間があるが、駅舎のなかにいても暇なので6番ホームまで来た。次の列車が乗る列車なので、ザグレブのように乗り間違う心配はない。ホームには他に三人組とひとり客が列車を待っている。
私はここからまずオーストリアのフィラッハに向かい、そこで1時間半ほど待ったあと、ローマ行きの寝台列車に乗り換える。ヨーロッパの列車は車内アナウンスがないことが多いが、フィラッハまではわずかに1時間半だし、国境を越えて最初に停まる駅なので、寝過ごさないかぎりわかるだろう。
|20:43
列車に乗り込む。先頭の二両は寝台車で、その後ろに座席車が続く。座席はコンパートメント形式ではなく、仕切りのないボックスシートだった。
車内はわりとすいている。列車そのものはセルビアの首都ベオグラードからスイスのチューリッヒに向かう便だが、この車両は途中までしか行かない。それでも車内はすでに夜行列車の空気をはらみ、長旅に疲れたのか、長い夜に備えているのか、低い話し声がたまにぼそぼそと聞こえるほかは物音らしい物音がしない。
列車は定刻通りに発車しそうな気配である。
|21:10 リュブリャーナを出て二つめとなるクラーニ(Kranj)駅に到着。そしてすぐに発車。定刻で運行されているようだ。わかりやすくてありがたい。
|21:40 ブレッド湖駅に到着。そしてすぐに発車。観光地で乗降客が多いせいか、田舎駅にしては駅舎が立派で灯りも多い。フィラッハまであと50分。
|21:53
イェセニツェ(Jesenice)駅に到着。乗員の交替でもあるのか、しばらく停まっている。これがスロベニア側で最後の駅になる。
いま動き出した。
|22:09 近くのおやじの携帯が鳴ったと思えばオーストリア側の駅を通過した。停車はしない。知らない間に国境を越えたようだ。おやじが携帯に出ないところを見ると、着信音はおそらくキャリア(通信会社)が変わった通知だろう。
スロベニア → オーストリア
(Google Mapを加工)
|22:38 フィラッハ(Villach)中央駅に定刻に到着。しばらく暖かい車内にいたせいか、すっかり眠気にとらわれてしまい、寒いホームに降りても頭がまだ少しぼやけている。駅舎内はがらんとして寒々しく、気温も下がってきたので、カーディガンからフリースに着替える。
|23:20 暗くて外が見えないとはいえ、それほど都会とは思えないのに、この駅は壁も窓ガラスも券売機もエスカレーターも、すべてが真新しくてきれいだ。照明も明るい。スロベニアがEUに加盟したといっても、西欧と旧東欧の経済には大きな差があることを、この駅でまざまざと見せつけられる。
夜行列車に乗り込む前にトイレを済ませておこうとしたが、運悪く小銭が足りない。ちょうど近くに警備員がいたので硬貨をくずせないか聞いてみたところ、金は受け取らず、ただトイレのカギを開け、仕草で「入れ」と言ってくれる。
|23:50
かなり冷えてきたので入線の十分前まで待ってからホームに上がる。フリースはパリでの防寒着のつもりで持って来たのに、早くもここで出番が来るとは予想しなかった。
列車旅はいよいよ佳境に入る。一晩寝ればローマのテルミニ駅である。
・イェセニツェ(ウィキペディア)