リュブリャーナ

（スロベニア）

｜午後４時すぎ 　クロアチアのザグレブから隣国スロベニアの首都リュブリャーナに列車で到着した。二時間の移動なので疲れはなく、むしろ静かな車内で寝ることができ、活力がいくらか回復したかもしれない。
　リュブリャーナの地名はすでに前のページに何度か書いた。
　日本人にとって「リュ」や「リャ」の音はただでさえ馴染みが浅くて発音しづらいのに、それが連続するこの地名は、初見の方にはうっとおしく感じられるかもしれない。しかし、リュブリャーナの読み方に関していえば山上兄弟の「てじな〜にゃ」と同じ要領なので、実際はそれほど難しくはない。

　女子バックパッカーと別れ、ホームの端にあるコインロッカーに荷物を預けたあと、両替所で円からユーロに両替する。１万円が92ユーロになったので、単純計算で１ユーロ＝108.7円である。今日の正確な為替相場は不明だが、105円を少し切っている程度だとすれば、かなり良心的だと思われた。

　リュブリャーナは何年か前に一度来たことがある。駅の細長い切符売り場を覚えている。川沿いの蚤（のみ）の市に行ったことも記憶にある。ただ、駅から「三本橋」までの道のりが思い出せない。なので、ガイドブックの地図に頼ることになる。幸い、鉄道駅から三本橋までは歩いて10分か15分の距離であり、道もわかりやすい。
　三本橋を渡って左に折れた先に、リュブリャーナ大聖堂がある。大聖堂を訪ねたというより、立派な丸屋根に誘われて訪れたのが大聖堂だった。中の装飾は圧巻で、息を忘れて見入ると言ってもあながち誇張ではない。しかも数人の信者が長椅子に沈んでいるばかりで、静閑とした堂内は音を立てることさえはばかられる。祈りがあらゆる邪魔立てを跳ね返していた。
　そこに、どやどやと騒々しく乱入したのが白人のツアー客だった。
　たしかに嘆息する光景である。白亜の大理石に嵌め込められた金色の装飾とルネサンス風の壁画、天井から重々しく吊り下がるシャンデリア。しかし、ツアー客のための娯楽施設でもないのに、我が物顔でフラッシュを浴びせかける。
　祈りの世界がたちまち俗世に堕（お）ち、無音のサイレンがけたたましく鳴り響く。

リュブリャーナ大聖堂

大聖堂の中

　大聖堂の裏にあるという雑貨屋Trgovina Ikaに興味を引かれたので、裏の通りを歩いてみる。店はすぐに見つかったが、急ぐ用事もないので少し付近を歩いていると、赤地に白十字を抜いた旗が建物から街路の上に突き出していた。
　——あの旗はマルタ騎士団では？
　下のドア口まで行って表札を確かめると、まさしくそうだった。旗を見てそれとわかるというのはいささかマニアックなようだが、以前、何かの下調べをしたときに偶然知ったのであり、べつにマルタ騎士団おたくというわけではない。ただ、21世紀の現代に騎士団と呼ばれる組織が存続していることは単純な驚きであり、しかも領土がないのに国連総会にオブザーバー参加できるなど、意味のよくわからない点が興味深い。

マルタ騎士団の旗

　雑貨屋Trgovina Ikaは、狭い店内にかわいらしい雑貨をぎっしり並べていた。しかし、この手の雑貨は嗜好が百人百様であり、個性的なものが喜ばれるとは限らず、かといって無難な品物ならわざわざスロベニアで買う必要がない。
　個性的でかつ中庸を行くものは多くはなく、結局、動物をかたどったマグネットをひとつ買う。

　三本橋まで戻り、今度はメインストリートに向かって歩いてみる。おりしも日が大きく傾き、芝生が植わった公園にはやわらかな日差しが差し込んでいた。

夕暮れの街路

夕方のズベズダ公園

　中央郵便局の向かいにnamaというデパートらしき建物がある。遠い記憶が刺激される。前回リュブリャーナに来たとき、向かいの郵便局の側から大通りをはさんでnamaの写真を撮ったのだった。再訪の記念に同じような角度で再び写真を撮ってみる。
　列車の出発までまだ時間があるので、大通りをぶらぶら歩く。途中、本屋があったので入る。旅行先でグリーティングカードを探すのが好きなので、グリーティングカードが目的である。ただし、大人が使える垢抜けたデザインで、しかもさりげなく現地語が書かれたものは意外と少ない。そんななかから、わりと気に入ったカードを二枚選んで買った。

nama前