▷ 石の門
坂道を適当に上っていくと「石の門」に出た。
1986年にザグレブを訪れたときは、名所旧跡を巡るというより、高台に惹(ひ)かれて坂道をふらふらと上り、聖マルコ教会からここに出たのだった。3月の寒い時季だった。
あのときここに来たのはまったくの偶然なのだが、聖マルコ教会から左の道をたどれば自然とここを通るので、とりたてて偶然と騒ぐほどのことではない。むしろ、ここに来たことより、ここに来たことを覚えていることのほうが希少かもしれない。
「石の門」の光景がそれだけ印象的だったということに他ならない。
まず、道が建物をL字形に通り抜けている。そして、L字の角の部分にマリア様が祀(まつ)られ、道の反対側に献灯台とちょっとしたベンチが設けられている。つまり、通り抜け式の教会がそこに出来上がっていた。
祀(まつ)られているマリア像に由来があるらしく、ネットで検索するといろいろヒットする。しかし、たとえ由来を知らなくても、観光客や地元の信者たちが道ばたの献灯台にロウソクを立て、木のベンチに座って祈る様子はそれだけで印象深い。他の人に交じって私も小さめのロウソクを1本買い、献灯台にそっと立ててみる。小さいロウソクは1本1.5クーナ(20円強)だった。