− 短編・旅エッセイ −
<9> 週末の共和国広場 |
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アルメニア・首都エレバン
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歴史博物館の正面に大きな噴水がある。水柱が水底から轟然(ごうぜん)と吹き上がり、頂点で細かな粒に分かれてはらはらと散らばり落ちる。そのわずかの間に、午後の太陽を満身で跳ね返す。
博物館と噴水の間に敷かれた石畳に、高校生くらいの男女数人が立っていた。おそらく新しいアルメニアしか知らない世代である。若者たちは噴水を背に立ち、自分たちには〈いま、この瞬間〉しか存在しないとでもいうように、迷いのない確かな表情で仲間のカメラをまっすぐに見る。シャッターが切られると列がわらわらと崩れ、はしゃいだ声とともにカメラマンが入れ替わる。
新生アルメニアが順風満帆とは聞かない。しかし週末のエレバンを見ていると、エネルギーを静かに溶かし込んだ確かな水脈が、大地の下を滔々(とうとう)と流れているのを感じる。