− 短編・旅エッセイ −
ゆくらゆくらにアジアたび <5> 夕立のあとさき |
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中国・広州
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次の日の午後、中山紀念館から三元宮へと巡ったあと、足を伸ばして西漢南越王墓博物館を訪れた。
館内をひと通り回って出口に向かうと、出口の前が土産物屋になっている。そこに一歩足を踏み入れると、ミニスカートの若い女子店員が待ちかまえていたように「日本人ですか」と笑う。買うべきものなどあるはずがないと思い、ただ「はい」とだけ返事をしてその場をすり抜けたが、よりによって外は土砂降りの雨になっていた。私はあきらめて店内にとどまる。
「ハンカチ、どうですか」
女子店員がつたない日本語で土産物を勧めてくる。何枚かを手にとって眺めてもみるが、それくらいで時間がかせげるわけもない。私はさらに売り場を進む。ある一角に、白檀で作った吊しものの細工があった。
「これとこれ、セット、いいよ」
女子店員はすかさず言葉を差しはさむ。よく見るとたしかによくできた細工ではある。しかしどう考えても二つはいらない。その気持ちを読んだわけでもないだろうが、女子店員は別の細工を一つ取り、黙って私の目の前にかざす。こてこてした装飾がなく、シンプルな形に見えた。私はそれを買った。
雨足は依然として強かった。
私は客として休憩するくらいの権利はあろうと、店の片隅に置かれたテーブルの前に座る。テーブルの上には、店員の使ったコップやら雑誌やらが雑然と置かれている。その脇に、英会話のテキストが開かれていた。女子店員のものらしく、細かな書き込みがしてあった。
しばらくして店内が少し騒がしくなる。
閉館時間だった。とくに片づけ作業もないのか、従業員たちはあっという間に戸口に集まって一斉に出ていく。
雨はいつのまにか上がっていた。私も女子店員といっしょに外に出る。狭い地下の穴蔵からようやく地上に解放されたような心持ちがし、外の蒸し暑さに懐かしささえ覚えて空を仰ぐ。
敷地内を抜けて大通りに出ると、街はひと足早く活気を取りもどしていた。これから英語学校だと言う女子店員と別れた私は、夕晴れの時間を惜しむように顔を上げ、五番のバス停を探して解放北路を北へ歩いた。