流れに乗って着いた先に、かまぼこ型の建物がある。市場だ。あとで調べたところ、クアディン市場(タラート・クアディン)というようだ。
かまぼこ型の建物は後回しにし、右手にある、ごちゃごちゃと貧相なテントを張った一角を見に行く。通路の両側に多くの八百屋がひしめく。薄暗い。テント屋根が通路の真上に張り出していて、光が入らないのだ。広い通路に出るとようやく左右のテントが別れ、明かりが入る。今日のような天候では邪魔な感じもするが、雨も日光も強烈なビエンチャンでは、こういう構造が売り子にも野菜にも好都合なのだろう。
青菜売り場ではおばさんが商品に水を掛けて、みずみずしさを与えていた。
かまぼこ型の建物に入ってみる。フロアの半分ほどが肉売り場だ。大きな塊をその場でさばいている店もある。さして珍しい光景ではないが、黄色い裸電球の下に赤い塊がずらりと並ぶ光景はむしろあっけらかんとして、食肉の根源的な姿を無邪気にさらけ出していた。
建物の正面には仏壇が設けられている。高さが3メートルほどある立派な造りだ。市場の片隅にはお詣りグッズを売る店もある。市場の雑踏という日常のど真ん中で、ふと自分に返る静かな場所である。
生鮮市場など、どこも似たり寄ったりだ。それでも脇道の奥でひっそりと営まれる市場には、整備された観光地では感じることのできない生のエネルギーが、平凡な日常のど真ん中を貫いて流れ出ている。