コソボの旅はクライマックス。デチャニ修道院に向かいます。
デチャニ修道院
ロータリーを渡り、市庁舎に面した左側の道を行く。突き当たりのY字路を道なりに右に曲がると、舗装された山道に入る。たまに民家があり、広い屋敷の門前ではおばさんが2人、立ち話をしている。やはりセルビア人なのだろうか。
Y字路から10分か15分ほど歩いてようやく検問所が見えてくる。トラックすら遮断しそうな大きな車止めが互い違いに置かれていて物々しい。これほどの防御を必要とするほどアルバニア人の襲撃は苛烈なのだろうか? プリズレンで昨日見た生神女教会や救世主教会の、雑草が生い茂る様子を思えば、被害妄想だと笑うことはできない。
今日はとりあえず気候もよく、空気はのどやかだ。
検問所
検問所はノーチェックだった。詰所の前に立っていたKFOR(コソボ治安維持部隊)の兵士に挨拶をすると、右側の道だと手振りを交えて教えてくれる。まだ先があるようだ。Grazie !
途中、迷彩色に塗った軍用車とすれ違う。クラクションが朗らかに鳴った。運転手が片手を挙げるのが見えたので、思わずこちらも応える。ペーチの修道院もそうだったが、いかめしく過剰気味の装備のなかで陽気に振る舞う兵士たちは、悲しくもあり、安心でもある。状況が落ち着いていることが何よりの希望である。
13:15検問所から10分ほど歩いてようやく入口に到着。例によってパスポートを預けて中に入る。
大きな門を入ると正面に広い庭がある。写真禁止のマークが目の前に立っているため、遠めからすら撮れない……。写真は諦めて、左手から円弧を描きながら右に回り込んで聖堂に入る。
ペーチのときは尼僧院だったのでシスターが対応してくれたが、ここは普通に修道院なので司祭が対応する。堂内に日本語のパンフレットがあって、本来は売り物だが、堂内で見るのは自由だった。宗教画の説明を英語でされても困るので、司祭にとっても見学者にとっても便利でありがたい資料だった。
よくできた冊子である。壁のフレスコ画について逐一説明があり、しかも簡潔。
それはちょうど、初めて食べる、手の込んだイタリアンについて食材や調理方法をその場で詳しく教わるのに似ている。そのつど、なるほど、そうなのか、と感心し、たまに深いため息などをついたりもするが、すべて食べ終えたときにはどこ吹く風、ひと言、おいしかったで済ませてしまう。
デチャニ修道院の壁画もそんな感じで、おそらく20分くらいかけてじっくり見たと思うが、どんな絵があったのか、すでに思い出せない。ただ、絵のモチーフはおおかた決まっているはずなので、いろいろ見ているうちにわかるようになるのかもしれない(そんな時はもう私には訪れないだろうが)。
案内冊子のおかげで、何百年も昔の芸術家や宗教家と向かい合ったような気持ちになる。反面、現在の聖職者と話す機会はあまりなかった。古人(いにしえびと)とのしばしの逢瀬(おうせ)を惜しむように、しかし長居は無用と、入口でパスポートを受け取り、来た道を戻る。
参道(?)から見た聖堂
14:25検問所を通過。
14:45バス停があるロータリーまで戻ってくる。曇天だが予想以上に歩き、ノドが渇いた。売店で飲み物でも。と思ったときに限ってバスがすぐにやってくる。ジャコーバ行きだったので、ジャコーバのバスターミナルで買えばいい。
✧バス 1.50(デチャニ→ジャコーバ)
帰 宿
15:25ジャコーバに到着。入口の写真を撮ってから冷えたシュウェップス。プリシュティナでもプリズレンでも60セントかせいぜい65セントだったのに、ここでは何と、70セント!もした。
プリズレン行きのバスはたいてい1時間に1、2本あるのに、15時台はなぜか1本もない。不人気な時間帯なのだろうか。乗り場の前でぼんやり待っていると、大学生くらいの若い男に話しかけられた。
男はきれいな英語を話した。どこかに留学でもしたのかと思って聞いてみたが、コソボで学んだという。英語が話せれば世界中どこでも仕事ができると言った。見事な心意気。
せっかくなので、アルバニア語のゲグ方言について聞いてみた。コソボでは90何パーセントかの人がゲグ方言を話すという。男はもともと冗舌ではなさそうで、外国人と英語で話してはみたが、いきなりプライベートな会話をするほど無神経ではなく、ある程度話して去って行った。
✧Schweppes 0.70
15:50プリズレン行きのバスが入線。
16:10バスは定刻に発車。小銭が足りなかったのでバス代は20ユーロ札で。
✧バス 2.50(ジャコーバ→プリズレン)
16時40分すぎ、プリズレンのバスターミナルに帰着。地勢が下りということもあり、快調に走った。
宿の手前の食料品店で、水とカラムーチョみたいなフライ菓子。
17:10宿に帰着。
晩ご飯
19:20Besimi-Beskaで昨日食べたマカロニ・ボロネーゼはうまかったが、3日連続で同じ店というのはあまりに芸がないので、他の店を探す。Restaurant Metiの前にスパゲティの絵があったので中に入り、ひとつ覚えの A keni spageti?(スパゲティはありますか)。
メニューを見せてくれたので、スパゲティ・ポマドーレとか何とか。
ところが、出てきたものは麺が茹ですぎてぷつぷつ切れる。トマトソースは味に芯がなく、さらさらとして水っぽい。スパイスの刺激もない。昨日のマカロニとは雲泥の差だった。これで同じような値段を取るとは理不尽だ。三流レストラン確定。
スパゲッティ的な。
河岸を少し歩き、記念に Kosova Sot という地元紙を買って帰る。Sot は「今日」なので Kosovo Today という意味だ。
✧晩メシ 3.50
✧Kosova Sot 0.40
夕暮れのルンバルジ河岸
20:40帰宿。コソボ滞在は今日でおしまいである。明日はマケドニアの首都スコピエに抜ける。宿以外はまったくの白紙なので、だいたいの予定を考えねば。
― 今日の締め ―
ユーロ残:354.40(財布60、保管190、予備100、小銭4.40)