雨音を窓外に聞きながら部屋でのんびり荷ほどきをしていると、管理人のおじさんが現れる。オーナーは当家のじいさんのようだが、あまり英語を話せないので、客に説明する仕事はこの人の担当なのだろう。
明日は朝10時の飛行機に乗るので早めに宿を出ないといけない。そのためオプションの朝食を頼んである。おじさんは朝食について簡単な説明をしたあと、空港までの移動の話に移る。空港までタクシーを頼むと25ラリだ、よかったら宿から送ってやると言う。タダに聞こえなくもないが、まさかそこまでのサービスはなかろう。本当なら料金を確認しておく場面だが、淡い期待を明日につなげたい気持ちもあり、敢えてそこは曖昧のまま依頼した。
少し休んだところで外を見ると、幸い雨が上がっている。まだ午後3時半だが、厚い雲のせいで今にも暮れそうな暗さがある。まるで夕方のような休息感と、雨が上がったタイミングに、急かされるようにして外に出た。
先ほどタクシーで見た噴水広場まで行ってから、北側に折れてみる。いろんな店が集まっている様子からみて、この辺りが旧市街の中心のようだ。表通りはふつうに1階に店舗を構えているが、裏道に入ると、トビリシの住宅地でも見たように、地上すれすれに窓を開けた半地下の店が続く。独特の光景を写真に収めたかったが、なにぶん階の半分しか地上に出ておらず、売り買いの生活感を収めるのが難しいので写真は諦めた。
どうやら雨は上がったようだ。世界遺産のバグラティ大聖堂を見たいのはやまやまだったが、体内の元気はすでに消耗していた。まだ明るいのでもったいないが、明日の活動に備えて宿で休むことにした。
翌朝6時に起きて支度をしているところに、じいさんが呼びに来る。キッチンに朝食が用意されていた。豪勢である。パン(バターとジャム)のほか、ゆで卵2つとソーセージ2本、そしてヨーグルト。飲み物はLiptonの紅茶。7ラリ(400円強、感覚的には700円弱)の価値は十分にある。
朝 食
部屋に戻ってパッキングをしていると、再びじいさんがやってきて急がせる。英語でレジストレーションという意味がよくわからないが、国際線とはいえ地方空港なので、空港まで30分として8時すぎに出れば十分だとみていた。それでもじいさんが外で待っているので、準備のペースを上げた。
8時前に宿を出発し、マクドナルドまで3キロの標識を通過する。外は昨日の地雨がうそのように晴れ上がっていた。ちょっと恨めしい気になるが、広大な草原や荒れ地をびゅんびゅん越え行くうちに、清々しい気持ちが戻ってくる。
宿から30分足らずでクタイシ空港に到着する。ターミナルと管制塔が街道沿いの野原に無遠慮に建っている。武骨なコンクリート製のしょぼい地方空港を想像していたが、どうしてこぎれいで真新しいターミナルである。宿のじいさんは案の定、相場の25ラリを請求する。あるいはサービスかという、5パーセントほどの薄い期待がたちまち消えたが、表面上はあたかも昨日から知っていたかのように当たり前に支払う。
ターミナルの前や入口付近には旅客らしき人がぱらぱら見える。思ったより人が多いことに多少動揺しながらビルの中に入ると、まだ出発の90分前だというのに、チェックインカウンターにはすでに30人ほどが並んでいる。採算性に敏感なLCCだけにそれなりの客を積んでいくのだろうが、それでもグルジアからリトアニアに向かう定期便にこれほどの人が乗るというのはまったく予想できなかった。肌の白い人が目立つので、リトアニアからの行楽客が多いのかもしれない。
15分ほど並んでチェックインが無事に完了する。カウンターでパスポートと照合する際、ビザやパーミットがどうとか聞かれたが、よくわからなかった。おそらくリトアニア側の話だろうが、日本人はビザなしで入国できる。カウンターの女性は少し離れた同僚に確認しに行き、納得したようだった。
出国審査でも同じことが起きた。それなりに知識があるはずの職員から2回も聞かれると少し不安になり、思わず端末をネットにつないでリトアニアの入国条件を確認してしまった。リトアニアはそもそもシェンゲン協定国だから多くのEU国と同様、ビザがいるはずがない。あるいは、加盟国であっても独自の入国審査を課すことがあるのだろうか。いや、それならすでに協定を脱退していることになる。
ガラス張りの待合室で水を買っていると、機材が空から滑走路に降り立った。やがてターミナルに到着し、乗っていた客がゲートからばらばらと出てくる。私のグルジア旅はこれで終わりである。思うように回れなかった面はあるが、それもまた旅である。このあとリトアニアに半日滞在し、最後にチェコのプラハに寄って帰国となる。
クタイシ空港のターミナル
搭乗便の手続き案内
ウィズエア便の搭乗の様子