体が硬く冷えていた。昨日のトビリシは穏やかに秋晴れて、今日もその程度までは気温が上がると決めつけていたのに、午前中のムツヘタは打って変わって終始肌寒かった。
正午前にトビリシに戻ったあと、どこか落ち着けるカフェで体を休めようと、検索して見つけたのがプルプルだった。たしかコーヒーも出したと思うが、紅茶がメインの店なので、ティールームと呼ぶのが適当だろう。
プルプルという、中途半端に安直な響きの名前が気にはなったが、生粋のグルジア語だとまず覚えられないので、その意味では効果的なネーミングなのかもしれない。
場所は宿と自由広場の間だった。地下鉄駅との行き帰りに通る道なので、土地勘のない私にも馴染みのある場所だ。正確に言えば曲がり角の少し先なので、そんな店があるとは知らなかった。地下鉄の自由広場駅を降りた私は、さっそく店に向かう。
店の入口は、曲がり角を脇道に入った先にあった。建物の前は小さな公園になっている。ベンチを何台か置いた、静かな憩いの空間だ。その空間がさもそのまま続いているかのように、入口のすぐ先に木の階段が伸びている。導かれるようにして2階に上がると、脇に花を飾った、ハイソ志向のシャレた戸口が待っていた。
場違いな空気に気づかないふりをして中に入ると、細長い広間が右手に広がっている。背の高い窓がたくさんはまった壁が、公園を見下ろす。周囲は数階建ての建物が建て込んでいるが、前に公園があるおかげで空が広い。曇り空というのに、まるで公園の上空を漂う光を残らず集めるのだとでもいうように、高窓が外の自然光を精一杯取り込んでいて明るかった。
築100年は優に経っていると思える古めかしい部屋に、黄色やピンク系統の布地が軽やかな肌ざわりを置いていた。平日の午後1時すぎという、ランチには遅いがアフタヌーンティーにはまだ早い時間帯のせいか、広い店内に客は1組しかいない。30歳前後のきれいな女性が、とくに急ぐともなくテーブルにメニューを持ってくる。
開いたメニューには、この世のさまざまなお茶が載っていた。いったい誰が選んでいるのか、この店の嗜好の広さと好奇心の深さに目を見張る。台湾のお茶や中国の碧螺春(ピロチュン)という緑茶がさりげなくメニューに載っているのを見ると、中華圏の茶館に来たのかと錯覚する。もちろん紅茶も各種あり、さらには日本の玄米茶まである。せっかくなので私はグルジア緑茶を頼む。淹れ方にもよるだろうが、飲んでみると日本の煎茶ほど渋みがなく、後味がすっきりしていた。
窓際の席で日記のメモを書き、ツイッターを読み、時折ぼんやりとしながら、カップが空になるとポットの緑茶を注ぐ。値段はポットにつき8ラリちょっと。コーヒースタンドの立ち飲みインスタントが1ラリで、サンドイッチのサブウェイで頼んだコーヒーが3ラリ程度だったことを思えば、感覚的には百を掛けて800円くらいか。いい値段である。
それでも肌寒い外界をのんびりと眺めながら、体と心をじんわりと休められるのだから、うまく利用すればそれだけの価値は十二分にあると思えた。
店内をゆるやかに時が流れていく。ポットの緑茶も徐々に減り、多少の手持ち無沙汰を感じ始めたので、時計をのぞくと午後2時が近い。身も心も休まったところでそろそろ市内散策を始めようかと、木製の椅子をゆっくり引いて席を立った。