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 グルジア雑記 
えにし
経巡るグルジアトビリシの縁
 
2ICカード
 都会の例に漏れず、首都トビリシの足は地下鉄とバスである。観光都市なら1日乗車券などを用意していて、気の向くままに自由に乗り降りできたりする。ただ、1日乗車券は意外と割高の場合があり、香港のオクトパスのようなICカードのほうが、使った分だけ差し引かれて便利なこともある。
 ——トビリシにも1日乗車券のような便利なチケットがあるだろうか。
 淡い期待を抱いていたが、トビリシには1日乗車券はなさそうだった。ところが何と、交通系のICカードがあった。地下鉄と市内バスが全線で利用でき、地下鉄駅の窓口で好きな金額だけチャージできる。カードそのものも地下鉄駅の窓口で買えるという。トビリシ到着日にお会いしたKさんに、そう教わったのだった。
 小銭の問題はすでに空港バスで発生していた。
 券売所はなく、切符は車内で買うらしかったが、車内にいた係の女性は切符を売る気配がなく、乗ってくる客はみな乗降口の機械を使う。見ていると、ほとんどの客はICカードをピッと鳴らしている。わずかに何人かがスロットにコインを落とし、出てきたレシートをちぎる。
 空港バスなのだから、ICカードも小銭も持ち合わせない客への配慮があってよさそうだし、そのために車掌が乗車しているはずだ。やがてバスが発車したので、私は当然のように係の女性に2ラリ硬貨を渡す。切符と釣り銭が返ってくるものと期待したが、彼女は近くの客にそれを1ラリ硬貨2枚に替えてもらうと、それをそのまま私に渡してきた。
 ——自分で買えということか。
 グルジアに着いたばかりの外国人に地元客と同じ行動を期待されても困るのだが、支払機はすぐ近くにあったので、仕方なく自分で操作する。料金はたしか50テトリ(0.5ラリ)でいいはずだが、見たところ釣り銭が出るような細やかな機械ではなさそうなので(取出し口がない、釣り銭は諦めてスロットに1ラリ硬貨を落とす。ボタンを押すと、レシートがめんどくさそうにずるずると顔を出した。
 途中で薄々気づいていたが、この37番のバスは空港客のためのバスではなかった。37という半端な番号が暗示するように、空港まで走る市内バスにすぎない。さらに言えば、係のお姉さんは車掌ではなく、不正乗車を取り締まる検札員であるらしかった。
 それですべての謎が解ける。検札員にお金を渡したところで何も起こりはしない。むしろ2ラリ硬貨を両替してくれた親切心が心に少し痛い。しかも、自由広場で教えてほしいという私の無邪気な頼みを忠実に実行してくれ、そのうえ私のお礼の言葉に、とても自然な笑顔が返ってきた。
 トビリシで自由な移動を確保するにはICカードが必携だと痛感した私は、翌朝まっ先に地下鉄駅に行ってICカードを買い求めた。

トビリシの交通系ICカード

自由広場の停留所/意外と近代的だ
(2014.11.01 記)