駅から町へ
列車を降り、ホームを軽やかに踏んで駅舎に入る。天井の高い広間にインフォメーションの窓口があった。仕事なのか暇なのか、30代から40代くらいの駅員の男女3人が窓口の前で立ち話をしている。ものを尋ねるには好都合だった。
気がはやったか、少し手前で Izvinite(すみません)と声を掛けたが、注意がこちらに向いたタイミングでちょうど目の前に立つ。あらかじめ頭のなかで組み立てたとおり、
「中心部に行くバスはありますか」(Da li ima autobus za centar ?)
と聞く。セルビア語で実際にこう言うのかどうかは定かではないが、いまの私のレベルでは十分に上出来である。返ってきた答えはもちろん理解できないが、右に出た奥だということは仕草でわかった。
バニャルカ駅の正面入口
ソ連風のバカでかい駅舎を右に出ると、たしかにバス停がいくつか並んでいた。さて、どれに乗ればいいのやら。
バニャルカ駅前のバス乗り場
とりあえず先頭のバスに乗り込み、運転手に、
「中心部に行きますか」(Da li vozi u centar ?)
と尋ねてみる。こういうときはただ「ツェンタル?」(Centar)とだけ聞けば十分なのだろうが、着いたばかりでアウェー感が強かったこともあり、少し探る感じで丁寧に言ってみた。
運転手は何か言いながら大きく後ろを指差す。少なくともこのバスではないようだ。
後続の6番のバスは窓のプレートに Centar(ツェンタル)と書いてあった。乗り込むときに、挨拶がわりに同じことを聞くと、運転手は、そうだ、乗れ、というような仕草で乗車を促した。
前回少し書いたように、ボスニア・ヘルツェゴビナという国は〈ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦〉と〈スルプスカ共和国〉という2つのエリアに分かれている。スルプスカ共和国はほぼセルビア人の国で、その中心都市がこのバニャルカである。雰囲気はボスニアよりもセルビアに近い。とはいえ、国としてはボスニアなので、使われるおカネは当然ながらサラエボと同じKM(兌換マルク)である。国というのはおかしなものだ。
運転手に1.4マルクを払うとレシートを発行してくれる。仕組みはサラエボと同じだった。
バスのレシート
(一番下の Autobuska karta が「バスチケット」)
ショッピングエリア
6番のバスは初夏の郊外を軽快に走る。やがて建物が増えてきたかと思うと、大通りに入って停留所に停まる。幅の広い歩道を多くの人が行き交っている。久しぶりに都会の雑踏を見た気がした。それでも高いビルがあるわけでもなく、空気のリズムがゆったりとしている。
降りるかどうか一瞬、躊躇したが、なんとなくここがこの町のピークのような気がして、降りることにする。窓の外に目をやると、停留所の名前がちょうど目の前にあった。Центар! ラテン文字に直せば Centar(ツェンタル)。言うまでもなく英語の「センター」である。まさにここがバニャルカの中心街であった。
これから宿に行ってチェックインだが、地図の感じだと少し歩きそうなので、賑やかなエリアで心身を軽くリフレッシュしておこうと思った。昼間の熱に浮かれた街路が落ち着きを見せ始めた界隈を、少しだけ歩いてみることにする。
商業施設「ボスカ」がある市の中心部
ソフトクリーム屋(1 KM=約60円)