たとえばイタリアでビザを食べるとか、韓国でピビンバや参鶏湯(サムゲタン)をいただくとか、あるいはタイやラオスでもち米のご飯(カオニャオ)を買うとか、よく知られた料理なら頼みもするが、そうでもなければ、旅先で土地の料理を食べることはそれほどない。どういう郷土料理があるかさえ知らないことも多い。
ガイドブックで多少の予習をしたところで、急には覚えられない。それに料理名がそのままメニューに出ているとは限らない。土地に馴染んだ料理ならバリエーションも多く、パンひとつをとっても細かな種類と名前があったりする。
グルジア料理については何も知らなかった。
ただ、まったく幸いなことに、到着の日にKさんとお会いすることになっていて、ヒンカリというものを食べに行った。
連れられた店は、ファミレスの内装をブラウンに統一して大人の雰囲気にしたような所で、客層はいくらか余裕のある中流と見えた。大きめの皿に載せて運ばれてきたヒンカリたちは、とても独特な形をしていた。乱暴にいえば、小籠包を数倍大きくして皮を厚くした感じだろうか。このページのタイトルには「肉まん」と書いたが、外形はむしろ巾着に近く、まるでたったいま樹木からもぎ取ったかのように、てっぺんがぎゅっとねじられた形になっている。
中に熱々のスープが入っていて、やけどに注意しながらスープを吸い出す要領は、まさに小籠包だ。いや、小さくはないから大籠包と呼ぶべきか。てっぺんのヘタというか芯のような部分はいわば取っ手であり、食べずに残す人が多いとKさんが教えてくれる。もったいない気もするが、その2、3センチの部分はもはや生地の棒なのでやや堅く、食べるにはたしかに向いていない。
具には香草(パクチー、コリアンダー)が混じっていた。グルジアで香草に出会うとは意外だったが、輪郭のはっきりした肉の味に清涼な風味が載り、ぱらぱらと振った胡椒(こしょう)とともに、小気味いい刺激を放っていた。
サラダを傍らに、4個も食べれば十分に腹がふくれる。何よりKさんとの気楽な会話のおかげで、ヒンカリのうまさがさらに引き出された。