クロアチア語はラテン文字を用います。文字は大文字と小文字が30個ずつあります。原則として1文字で1音を表すので、符号付きの文字があります。dž, nj, lj の3つはそれぞれ1文字として扱います。
※セルビア語はクロアチア語とほとんど同じですが、主にキリル文字を使います。主な違いについてはクロアチア語とセルビア語の違いをご覧ください。
母音は以下の5つです。短母音と長母音がありますが、一般に表記上の区別はありません。対応するキリル文字を参考までに載せておきます。
ラテン キリル
A a А а[a], [a:]
E e Е е[e], [e:]
I i И и[i], [i:]
O o О о[o], [o:]
U u У у[u], [u:]
クロアチア語はラテン文字なので、英語と同じ文字は基本的に英語と同じです。クロアチア語に特徴的な文字と音について簡単にまとめます。対応するキリル文字も載せておきます。
- ラテンキリル
- 発音
- CcЦц
- ツァ行の音です。
- HhХх
- ノドの入口(軟口蓋)で息を摩擦するハ行の音です。
- RrРр
- Rは巻き舌です。
- NjnjЊњ
- ニャ行の音です。
- LjljЉљ
- Lのリャ行の音です。
- ČčЧч
- チャ行の音です。
- DždžЏџ
- [dʒ](ヂャ行)の音。č [tʃ] に対する有声音です。
- ĆćЋћ
- チに近い音。音価は[tɕ]。
舌の中ほどを口の天井に近づけ、ヤ行の音を軽く加える。 - ĐđЂђ
- ヂに近い。音価は[dʑ]。ć [tɕ] に対する有声音。
- ŠšШш
- シャ行の音です。舌の中ほど以後を平らにします。
- ŽžЖж
- [ʒ](ジャ行)の音。š [ʃ] に対する有声音です。
- JjЈј
- 半母音です。ジャの音ではありません。
〔補足〕
* ts, ds:いずれも [ts] の発音になります。例:beogradski
* 母音扱いの r:r が子音に挟まれて「子音+ r +子音」になるとき、r の前に曖昧な音が入って「アル」や「ウル」のように発音されます(r は巻き舌です)。この現象を成節化というようです。条件によってはアクセントをもつことがあります。例:hrvatski, srpsk-
* 逆行同化:連続する子音に有声音と無声音が混在する——たとえば、有声子音+無声子音の——とき、最後の子音の有声・無声に影響されて、連続するすべての子音が有声音または無声音になります。つまり、有声子音+有声子音や、無声子音+無声子音などになります。この現象を逆行同化(regressive assimilation)といいます。
ただし、v は無声音の前でも無声化しません。例:novčanik [novtʃa:nik]
* 語末の有声子音:ロシア語などと異なり、語末の有声子音は無声化せず、有声音のままです。例:Zagreb [za:greb]
クロアチア語の文字の一覧をアルファベット順に示します。対応するセルビア語のキリル文字も併記します(セルビア語ではアルファベットの順序が少し変わります)。
- ラテンキリル
- 発音
- ラテンキリル
- 発音
- AaАа
- [a]
- LlЛл
- [l]
- BbБб
- [б]
- LjljЉљ
- [lj]
- CcЦц
- [ts]
- MmМм
- [m]
- ČčЧч
- [tʃ]
- NnНн
- [n]
- ĆćЋћ
- [tɕ]
- NjnjЊњ
- [nj]
- DdДд
- [d]
- OoОо
- [o]
- DždžЏџ
- [dʒ]
- PpПп
- [p]
- ĐđЂђ
- [dʑ]
- RrРр
- [r]
- EeЕе
- [e]
- SsСс
- [s]
- FfФф
- [f]
- ŠšШш
- [ʃ]
- GgГг
- [g]
- TtТт
- [t]
- HhХх
- [x]
- UuУу
- [u]
- IiИи
- [i]
- VvВв
- [v]
- JjЈј
- [j]
- ZzЗз
- [z]
- KkКк
- [k]
- ŽžЖж
- [ʒ]
- ラテンキリル
- 発音
- AaАа
- [a]
- BbБб
- [б]
- CcЦц
- [ts]
- ČčЧч
- [tʃ]
- ĆćЋћ
- [tɕ]
- DdДд
- [d]
- DždžЏџ
- [dʒ]
- ĐđЂђ
- [dʑ]
- EeЕе
- [e]
- FfФф
- [f]
- GgГг
- [g]
- HhХх
- [x]
- IiИи
- [i]
- JjЈј
- [j]
- KkКк
- [k]
- LlЛл
- [l]
- LjljЉљ
- [lj]
- MmМм
- [m]
- NnНн
- [n]
- NjnjЊњ
- [nj]
- OoОо
- [o]
- PpПп
- [p]
- RrРр
- [r]
- SsСс
- [s]
- ŠšШш
- [ʃ]
- TtТт
- [t]
- UuУу
- [u]
- VvВв
- [v]
- ZzЗз
- [z]
- ŽžЖж
- [ʒ]
上昇と下降、長母音と短母音の組み合わせによって4種類のアクセントがあります。アクセントがある音節は強めに発音します。
上昇↗ | 下降↘ | |
長母音 | á | ȃ |
短母音 | à | ȁ |
〔補足〕
*アクセント記号は一般に表記されません。
*アクセントのない長母音の表記:ā
*長母音:長さを短母音の2倍くらいに伸ばします。
〔一般則〕
* 上昇調:アクセント音節から次の音節に向けてピッチ(高さ)が上昇します。
* 下降調:アクセント音節から次の音節に向けてピッチ(高さ)が下降します。
*1音節語:下降調のみ。例:sȁd, sȃd
*3音節以上で、アクセントが語頭以外:原則として上昇調のみ。例:govóriti, pronàlazak
外来語では下降調のこともある。例:organizȃtor
*最終音節にアクセントは来ません。外来語は例外があります。
ニューエクスプレス『セルビア語・クロアチア語』中島由美・野町素己、白水社、2010年
『スラヴ語入門』1.4.2, 1.4.3, 3.3.3 三谷惠子、三省堂、2011年
『Serbo-Croat』Teach Yourself, David A. Norris, 1993