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クロアチア語セルビア語
主な違い 
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 クロアチア語とセルビア語はほとんど同じですが、細かく見るとさまざまな違いがあるようです。このページでは、どちらかの言葉を勉強した人がもう片方の言葉を近道で試すことができるよう、両言語の主な違いをわかる範囲でまとめてみました。
 ここで取り上げた違いは代表的なものにすぎませんが、初学者はこれくらい知っていれば十分ではないかと思います。また「クロアチア語でしか使われない」言い方もあれば、違いが必ずしも画然とせず「主にクロアチア語で使われる用法だがセルビア語で使っても問題ない」というレベルのゆるやかな違いも多々あるようです。気楽にご覧いただければ幸いです。
〈凡例〉C クロアチア語、S セルビア語、B ボスニア語
1.文 字
iconCラテン文字を使います。
iconS:基本はキリル文字ですが、ネットやデザインを中心にラテン文字も使われます。
 このページでは、セルビア語についてキリル文字とラテン文字を併記するときはスラッシュ(/)で区切っています。キリル文字表記を省略している箇所もあります。
※ クロアチア語とセルビア語の文字については「文字と音」をご覧ください。
2.発 音
je, ijee(当てはまらないものあり)
 スラブ系の諸言語が(理論上の)スラブ祖語から分かれ出る直前の始原的な言葉を〈共通スラブ語〉と呼びますが、この共通スラブ語の *ě に由来する音は、クロアチア語とセルビア語の間で下の表のように対応する傾向があります。
共通スラブ語 C·B S 例(C·B | S
長い *ě ije е dvije | две
短い *ě je е ovdje | овде
子-r + 短い *ě e е trȅbati | требати
ie(当てはまらないものあり)
語末の lo に交替するときの ioeo
  C·B S 例(C·B | S
  io ео m. bio | бео
(f. bijela | бела)
・記号「 | 」はクロアチア語とセルビア語の対応を表します。
語末の r の脱落
例)C·B: večer S: вече/veče
3.単語の違い
旅でよく使う単語の例:
単語によっては他方の地域でも通じるようです。
C S
コーヒー kâva ка̀фа/kàfa
パン krȕh хле̏б/hlȅb
トマト ràjčica пара̀дајз/
 
paràdajz
kȍlodvōr ста̀ница/
 
stànica
列車 vlȃk во̑з/vȏz
店 ┬ trgòvina ра́дња/
 
rádnja
  └ prodavaonica
大学 sveùčilīšte универзѝте̄т/
 
univerzìtēt
1,000 tìsuća хи̏љада/
 
hȉljada
 ※アクセント符号はwiktionaryによります。
疑問詞
  日 C S
「何」主格と対格 što шта/šta
「誰」主格 tko ко/ko
「どこに(位置) gdje где/gde
「どこへ(動きの方向) kamo куда/kuda
 ※「何」と「誰」は上記以外の格では両言語で同じようです。
4.疑問文の作り方
a. 動詞 + li …… クロアチアは基本こちら。セルビアでも使用可。
 (動詞を文頭に置き、疑問の助詞 li を続けます)
b. Da li + 通常文 …… セルビアではこちらが好まれるようです。
 (肯定文の文頭に Да ли / Da li を置きます)
例 市内地図ありますか?
C (+S) Imate  li  plan grada?
SDa li imate  kartu grada?
5.不定詞とda構文
情意動詞(したい、できる、など)の内容の表し方には次の2通りがあります。
a. したい etc. + 不定詞句
 …… クロアチアは基本こちら。セルビアでも使用可。
 (本動詞の部分を不定詞にします)
b. したい etc. + da + 動詞節
 …… セルビアではこちらが好まれるようです。
 (接続詞 да / da に続けて本動詞の活用形〔現在形など〕を使います)
例 ビールが飲みたい
C (+S) Želim  piti  pivo.(不定詞)
SŽelim  da pijem  pivo.(da+活用形)
6.未来形
〈短形の htjeti | хтети+動詞〉の倒置型で未来を表す場合
C·B: 不定詞語尾の -iを取る
S: 不定詞語尾の -ti を取って助動詞と結合する
〈動詞 biti の例〉
C·B:  Bit cu  ovdje. S:  Бићу овде./Biću  ovde.
7.動詞 trebati(必要だ、ねばならない)
iconC:英語の to need のように必要者を主語に立て(代名詞は省略可能)動詞 trebati他動詞で使います。
iconS:英語の it is needed for somebody のように非人称構文を取ります。日本語の「私には〜が必要だ」の言い方に似て、必要者は与格にします。
C·B: 他動詞(必要者 +)trebati の活用形 + 対象の物または不定詞句
S: 非人称構文треба/treba + 対象の物またはda構文(必要者は与格)
例1 私は歯医者(に行くこと)を必要としている
C: Trebao/-bija bih*  zubara.
* Trebao/-bija bih「私は必要とする trebamの婉曲表現。条件法1人称現在形。-baoのほうが男性形(主語が男性のとき)で、-bijaが女性形(主語が女性のとき)です。
例2 私は歯医者に行かなければならない
S: Treba da idem* kod zubara.
* idem完了体動詞「行く ićiの1人称現在形。
例3 私には音楽が必要だ
S: Treba mi muzika.
〈参考文献〉
・三谷惠子「現在のクロアチア語について」北海道スラブ研究センター、1993(§1.2)文献リンク
・三谷惠子『スラブ語入門』三省堂、2011(§3.3.3)
Comparison of standard Bosnian, Croatian, Montenegrin and Serbian
・David A. Norris, Serbo-Croat, Teach Yourself, 1993(16〜18課)
・中島由美ほか『ニューエクスプレス セルビア語 クロアチア語』白水社、2010
初版: 2016.3.28