4. 意表の天開稲荷社・続
最後の階段を上りきったら、申し訳程度の小さなスペースが丘の上にあって、その先に、これまたスペースを惜しむかのように小ぶりの社殿が建っている。
ここまで登ってくる参拝者はごく一部で、しかも林のなかを登ってくる間に邪気が落ちるのだろう、拝殿のまわりには清廉な神気がかなり保たれている。すっと澄んだ風がよそぐ。
天開稲荷社の拝殿
振り返ると、階段の横にこぎれいな社務所があってお守りなどを売っている。興味はあったが、先に進むことにする。
社務所兼お守り売り場
天開水というご神水がある。名前だけを見ると、横文字の会社が通販で高額販売しそうな名前である。ここでは蛇口をひねれば誰でも飲むことができる。手水(ちょうず)の水がまた清らかであった。
天開水と手水舎
ところで、「奥の院」が気になっていた。
気になったら行くしかない。「奥の院」と大きく朱書きされた矢印に従って拝殿の左手に回り込むと、鳥居の列が再び現れる。
稲荷社だけあって、左右を警護するのは狛犬ではなくキツネである。責任感が強いのだろう、眼光が気後れするほど鋭い。
奥の院に続く短い階段と左側のキツネ
階段は短く、ものの30秒で着く。
あ、これは意表を突かれた。
奥の院は建物ではなく、石を組んだ半地下の洞だった。天開稲荷大明神というのはこちらが本殿なのだろうか。いずれにせよ、この小さな空間のなかに祈りのエネルギーが閉じ込められている。
祭壇はまじまじと凝視するべきものではなく、ましてやこの濃い神気は写真に撮るべきものでもない。少し離れた場所から全体の様子を撮っておく。
天開稲荷社の奥の院
あとで知ったのだが、天開稲荷社は鎌倉時代に伏見稲荷の分霊を祀ったのが始まりだという。どうりで伏見稲荷感が強いわけだ。
(2020.10.2 記)