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ことざっき
外国語をめぐる少しオタクな雑文
(3何でもいい
 日本人は選択を他人に預けるのが好きだし、とりあえず様子を見るという戦術もあって「何でもいい」「どこでもいい」「どれでもいい」などと言いたいことが時々ある。
 英語なら一応自分の希望を言ってから、たとえば、
 But, any color would be fine.(でも、何色でもいいです)
などと言うかもしれない。
 他のヨーロッパ語についてもおそらく似たようなものだろうと思うが、浅学ゆえによくわからない。

 一方、アジアの言葉には日本語のように「疑問詞+も+肯定形」で表すものがある「何でもいい」の例をいくつか挙げてみよう。
 中国語:什么可以
 広東語:乜嘢可以
 タイ語:อะไรก็ได้

 下線の色分けは、が「何が「も」または「すべて、そしてが「可能」「かまわない」に当たる。

 ビルマ語(ミャンマー語)の場合は疑問詞の後ろに မဆို を置く。何 ဘာ → 何でも ဘာ မဆို, どこへ ဘယ်ကို → どこへでも ဘယ်ကို မဆို といった具合である。

 例文を2つ紹介する。言うまでもなく、これも本からの引用である。
 「何でも買える」
 ဘာ မဆို ၀ယ် နိုင် ပါတယ်
 「いつでも来ていい」
 ဘယ်အခါ မဆို လာ နိုင် ပါတယ်
 上と同様、青線がそれぞれ「何」と「いつ赤線が「でも、そしてがそれぞれ「買う」と「来る」に対応する。この構文も日本語の発想によく似ている。

 似た例がもう少しないか、ほかの言葉でも探してみたが、残念ながらこれ以上は見当たらなかった。この種の表現は目次にも索引にも出てこないし、薄い入門書にはそもそも載っていない。

 意味は違うかもしれないが、ロシア語でも疑問詞の後ろに уго́дно (ugódna)という助詞を置けばいいようだ。肯定文の「何でも」は что уго́дно となる。適当な例文がないかネットで検索してみると、おもしろいフレーズがヒットした。
 Путин мо́жет что уго́дно …
 Путин はロシアのプーチン大統領、может は「できる」。つまり、願望か皮肉かは知らないが、プーチンさんは何でもできる、という意味である。

〔参考〕
・ 『ビルマ語四週間』(大野 徹、大学書林、1986年)文例49, 59, 72, p.90 問題6
(2013.9.29 記)