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ことざっき
外国語をめぐる少しオタクな雑文
(1〜してみる
 ためしにやってみることを「〜してみる」と言うことがよくある。着てみる、食べてみる、行ってみる、などなど用例に限りがない。手元の国語辞典を引いてみると「見る」の項の最後に「ためしに……する」という意味が載っている。そして、普通、この意味のときは漢字で表記しない、との注が付いている。

 考えてみれば(これも、してみる系だ)、「見る」という動詞が「ためしに……」という意味で使われるのはユニークだ。日本語独特の表現だろう。
 と思っていたら、どっこいそうではなかった。
 ぼくが知っているかぎりでは、東南アジアにも同じ表現がある。

①タイ語
 基本形は〈試みる〉ลอง [lɔɔng] と〈見る〉ดู [duu] で動詞を挟むようだ。簡略形では ลองดู の一方を省略してもいいとのことなので、動詞〈見る〉だけでもいいようだ。
 基本形はたとえば次のようになる。
 食べるกิน [kin]
 食べてみるลอง กิน ดู [lɔɔng kin duu]

②ラオ語(ラオス語)
 タイ語と同じように〈試みる〉ລອງ [lɔ́ɔng] と〈見る〉ເບິ່ງ [bəng] で動詞を挟むようだ(つまり ລອງ+動詞+ເບິ່ງ。おそらくタイ語のように、動詞〈見る〉だけでもいいのだろうが、正確なところはわからない。
 基本形はたとえば次のようになる。
 食べるກິນ [kīn]
 食べてみるລອງ ກິນ ເບິ່ງ [lɔ́ɔng kīn bəng]

③ビルマ語(ミャンマー語)
 ビルマ語はもっとシンプルで、動詞の後ろに〈見る〉ဩည့်  [tʃi.] を付ければいい。たとえば次のような感じである。
 尋ねるမေး  [me:]
 尋ねてみるမေး ဩည့်  [me: tʃi.]

 タイ語とラオ語は関係が近いが、ビルマ語はやや系統が異なる。ビルマ語と日本語とは関連性が指摘されることもあるが、全体で見ればかなり違う言葉だ。それでもこのような共通点を見つけると、その言葉やそれを話す人たちとの距離が少し縮まった気持ちがして嬉しくなる。

「言雑記(ことざっき)では、外国語にまつわる小さな発見や雑感を紹介していく予定です。
ビルマ語のフォントについて:
ほとんどの環境で正しく表示されるものと期待していますが、もしかしたら正しく表示されないケースがあるかもしれません。その場合はご容赦ください。
〔参考〕
・ 阪大外国語学部、タイ語学習コンテンツ 第6課 表現と文法
・『ゼロから話せるラオス語』(吉田英人、三修社、2012年)第18課
・『ビルマ語四週間』(大野 徹、大学書林、1986年)文例78
(2013.9.24 記)